人間が生まれる前から居なくなった後も不変であろう太古の海を表現した杉本博司の「海景」への呼応作品。インスタグラムから特定のハッシュタグに紐づく膨大な画像を収集、人工知能的に分析、一つのイメージへ再構築する手法をとることで、人工知能の視る原風景=切り出された人間の社会概念を観察する。
本シリーズでは#atlanticseaや#caribbeanseaなどの地域に基づく海と、#foggyseaや#oceansunriseなどの状況に基づく海とに関するハッシュタグを混用している。物理的制約を取り外すことで海に対して共通した人間の営みを浮かび上がらせようと試みる。
人工知能の視る海には常に人の像が浮かび上がる。人間を一つなぎに留めてきた海は仮想世界で分断され、投稿者の生活、思想、美学の指向性に応じた海景がそこらで生まれていく。例えば霧の海の前に立つ人は多くの場合、レンズに背を向け、あの世を想うかのように視えぬ水平線の向こうを見つめる。南の海では多くの女性が腰の手を当てセルフィーを行い、北の海では水平線をアビーロードのようにしてレンズの前を横切る。こうして不変である海に加えて別の海が乱立する時、果たして波引き際に立つ視線の向こうに「われわれの海」がオーバーレイされていることに気づく。
人がこの世から居なくなった時、われわれはもう一つの海景の中で海を眺め続けるだろう。
写真:立石従寛、顧剣亨